透析医療研究会(当時の名称は透析医療統計研究委員会)は、1986年に実施された透析患者の全国調査のために、財団法人統計研究会によって組織されたことに始まる。全国調査は、研究会発足以前から、全国腎臓病協議会(全腎協)によって1972年、1976年、1982年と3回にわたり実施されてきた。この全国調査を、透析医療の従事者からの知見および統計研究会の委員の経済的および統計的な意見を加えて、より総合的なものとするために、統計研究会が調査の委託を受け、全腎協、日本透析医会の共同事業として行われるようになった。本委員会は、この全国調査のため、全腎協、透析医会、統計研究会の共同事業の受け皿として統計研究会内に組織されたのである。
その後、本委員会によって全国調査が1991年、1996年、2001年、2006年、2011年、2016年と、ほぼ5年間隔で10回継続して実施されてきている。その構成メンバーは、引き続き、全腎協の役員、日本透析医会の役員、統計・社会調査の研究者である。本委員会は、統計研究会が財政的な理由から解散を余儀なくされた2018年に、統計研究会の傘下から離れ、独立した研究会として活動を開始してきている。
1)透析患者に対する全国調査の実施
活動の中心である全国調査は、①全国規模の血液透析患者調査である、②ほぼ5年間隔で継続して実施してきており、時系列的な変化を見ることができる、③血液透析患者の団体と透析医の団体および調査の専門研究者が協力し、医学的、社会的、経済的な諸問題を総合的に取り上げることができるような調査内容となっている、④個々の調査対象者である血液透析患者ごとに当該患者の主治医が医学的所見に関する質問に回答している、という特徴をもっている。直近では、2016年に実施されたが、引き続き、継続して実施する予定である。
2)今日的な課題の解明を目指した調査の実施
全国調査以外にも、今日的な課題の解明を目指し、調査を実施してきている。具体的には、2004年に「中高年の透析患者とその配偶者の生活と健康に関する調査」、2006年に「透析患者のターミナルケアに関する医師の意識調査」と「高齢透析患者の生活と意識に関する調査」、2009年に「高齢透析患者とその家族の療養生活に関する意識調査」、2013年に「東日本大震災の透析患者への影響と震災の備えに関する調査:岩手、宮城、福島に居住する患者調査から」、2016年に「要介護透析患者に対するケアマネジメントの実際と効果」という課題を取り上げ、調査を行った。
3)政策提言
透析患者とその家族、さらに透析医療の従事者が直面する問題の解決を目指して、調査結果に基づき政策提言を行っている。この政策提言は、委員会のメンバーである全腎協、日本透析医会の活動方針に反映させている。
4)調査結果に基づく透析医療に関する情報発信
透析医療が抱える問題の解決には、その問題と解決方法について透析患者とその家族、透析医療の従事者という透析医療にかかわる当事者に理解いただくだけでなく、より多くの人たちに理解いただくことが必要である。そのため、報告書の発行、本の出版を積極的に行っている。
5)学術研究の蓄積に貢献
透析に関する医学的な研究の蓄積は多いものの、本研究会で取り組んでいる透析を巡る社会的・社会福祉的・心理的な問題については、日本だけでなく、外国においても研究の蓄積に乏しい。本委員会で実施した調査の分析から得られた知見については、日本国内だけでなく、世界の多くの研究者の目に触れることができるように、欧文の学術誌への掲載を積極的に行っている。